Life Is Quest -Another Story-

 

           〜 Sword Of Sadness 〜

 

 作・ELEMENTS

 

 

 

〜 プ ロ ロ ー グ 〜

 

 

 

森の中。

 

誰かが・・・いる・・・

 

『女?・・・』

 

何かに引きつけられるように俺は近付いていた。

 

しかし、

 

その女性は叫んでいた。

 

「こっちに、来てはダメ!」

 

それを無視し近寄る俺に、

 

・・・・・・

 

何か聞こえた・・・

次の瞬間深く暗い闇が俺を襲った・・・。

 

 

 

全身のけだるさと、じっとりとかいた汗で男は目を覚ました。

鬱陶しそうに黒髪をかきあげ部屋を見渡す。

 

「少し・・・、寝すぎだな・・・」

 

男の部屋はそう広くもなく、薄暗いのだが、唯一南に向いた窓から強い日差しが注がれ、もう昼を過ぎた頃であることを告げていた。

 

その明るさを恨めしそうにしながらも男は身体を起こした。

男の習慣なのだが、上半身は何も着てはいなかった。

 

男の背丈は170強といったところだろう、身長の割には細身だが無駄の無い筋肉が身体を覆っており、むしろ色気を感じさせる。しかし、男の両腕は肘から手首にかけて一面暗い紫色の痣のようなものがあった。

 

椅子にかけてあったシャツを着ると居間へと足を進めた。

 

部屋もそうだったのだが、居間もかなり殺風景である。

家というよりも小屋といった方が適切だろう。

無駄な物は無い、寝泊りするだけのためかと思われるほどだった。

 

その居間の小さなテーブルにつくと、置いてある水差しからコップに水を注ぎ一気に飲み干した。

 

そして深くため息をつくと、

 

「また、あの夢か・・・」

 

昨夜見た夢を思い返していたようだが、幾分としないうちに

 

「まあいい、今から急がなければならないしな・・・」

 

そうつぶやき自室へと戻っていった。

 

 

 

 

〜 旅 立 ち 〜

 

 

 

男は自室に戻ると旅支度を整えはじめた。

 

と、いってもそうたいした量はなく数分のうちに袋に詰め終わり、装備を整えることにした。

 

何かの合金製だろう、ダークグレイの胸当て、その中央には成長石がはめ込まれており蒼く輝いていた。

 

こういう風に装備の一部に成長石をはめ込むことはあまり好ましいことではない、

戦闘で傷がついたり、運が悪ければ割れる恐れさえある。

 

主に装飾品(ペンダントやブレスレット)にはめ込み持ち歩く人のほうが多いのである。

 

しかし、男はそれを好んだのだ、元より男には胸へと攻撃を受けるなどという下手な真似はしないという思いがあった。

 

たしかに胸当ては使い込まれてはいるが、これといって大きな傷は無かった。

 

篭手も胸当てと揃いの素材だが左腕のみである、

盾代わりにも使うのであろう表はかなり広い、

盾代わりというのは見る限り男は盾を持ってはいないのだ。

 

あとは鉄鋼を貼ったブーツ。黒のレザーグローブ。

 

そして武器を手に取る、

 

剣、幅はレイピアよりも少し広く、一般のロングソードよりも長めの作りである。

 

それと幾本かのナイフをベルトに差し込み漆黒のマントをはおり、荷物を手に再び居間へと向かった。

 

居間へ入った丁度その時玄関のドアがノックされ女性の声がした。

 

「クレス!まだいるのかい?」

 

返事はせず、ドアを開ける。ドアの前には初老の女性が立っていた。

 

「ああ、よかった、まだいたんだね〜、でも、いるなら返事ぐらいするんだよ、この子は!」

 

「ああ、ごめん・・・」

 

叱咤され、とっさに謝罪の言葉が出る

 

それを聞き女は口元を緩めた。

 

 

 

男の名はクレス、そしてこの女性はクレスの養母のフェルムである。

 

 

 

フェルムはクレスの格好を見ると、

 

「あの人があんたを拾ってから、もう20年も経つんだねぇ、あの人にも見せてやりたかったねぇ」

 

養父はすでに他界していた。

 

フェルムは目を潤ませていたが、すぐに

 

「たまには顔を見せておくれよ、あたしゃあんたの母親なんだからね」

 

満面の笑みと共にそう言うと手にもった袋をクレスへ押し付けた。

 

中には乾燥肉とサンドイッチ、そして5000ディムほどのお金が入っていた

 

「これは・・・」

 

クレスが少し戸惑いの表情を見せると、フェルムは、

 

「いいんだよ、どうせこんな田舎じゃそんなに金も使やあしないんだからさ」

 

そう言い放つと、収めるようにと促した。

 

まあ、返そうとしようにもそれを聞かない人であるのを理解している、

 

「じゃあ、貰っておくよ、ありがとう」

 

感謝の言葉を言うと初めて笑顔を見せ、それにフェルムも笑顔で応えた。

 

「渡せなかったらどうしようかと急いだけど、あんたが朝に弱くてよかったよ」

 

耳の痛い話でクレスは苦笑した。

 

「それじゃあ、用事もあることだし、あたしゃ帰るとするよ、ああ、無理だけはするんじゃないよ」

 

そう言うと、軽くクレスの背中を叩き、手を振りながら帰って行った。

 

「無理するな・・・か」

 

どこの世界に無理をしない冒険者がいるだろうかと思い、クレスは苦笑した。

 

 

そして、クレスもまた戻ってくることは無いであろうその家を後にした。

 

さらに強くなるため、そしてある目的の為にクレスは冒険の旅へと出発した。

 

 

 

 

〜 思 い 出 の 日 々 〜

 

 

 

 

その日は野宿をすることになり、焚き火の側で色あせた地図を広げた。

 

クレスの最初の目的地は王都ヴァルグリア、クレスの村から馬で2週間近くかかる、

そのためクレスは道中の街で馬を調達する必要があった、

 

街道沿いであれば行商人に乗せてもらうことも出来るだろうが、

クレスは近道をするために馬を得たら森を進もうと決めていた。

 

 

懐中時計はもう午前2時を指していた、

 

 

寝る前に多少何か食べたい衝動にかられ袋をあさり、

 

フェルムのくれたサンドイッチをほおばる。

 

もう当分、それも長い間食べないであろう、その味に昔のことを思い出し始めていた。

 

 

もともとクレスはあの村の者ではない、

 

 

あの村に住む養母の旦那であり行商人であったラルゴ=モーリスがその行商の道中で拾ってきたのだ。

 

二人とも40才近で実子もいたが、その子供ももうひとり立ちし始め、

村にはフェルムと残った15才となる娘のピアニがラルゴの留守を守っていた。

 

まだ1才にも満たないクレスを連れて帰ったときは、

フェルムは驚き、どこで作ってきたんだ、と皿を投げ怒ったが、

行商仲間の証言もあり、痴話喧嘩もおさまると

 

ラルゴのクレスを育てたいという意向にピアニ共々快く賛同した。

 

クレスと言う名はラルゴが付けたものではなく、

クレスを拾ったときにあった書置きにその名があったからである。

そして最初からクレスが実の子供でないことをラルゴは隠すことも無く、

クレスもそれを理解し、クレスがモーリスを名乗ることもなかった。

しかし、モーリス一家含め村の人々はとても良くしてくれ、

クレスは不自由することなく育っていった。

 

クレスは何にでも興味を示す子供だったが、特に剣が好きであった、

5,6才になったころは村にある自警団が訓練をする横で見よう見まねで棒っ切れを振り回し、

それをフェルムが夕飯の支度をし、呼びに来るまでずっとそうしていた。

その様子を聞いたラルゴはクレスを抱きかかえ。

 

「お前にも好きなことをさせてやる、他の子供たちにもそうしてきたからな」

 

そして、ある日ラルゴは友人でもあり、自警団の顧問でもある剣士の元へと連れて行き、クレスに剣を教えてくれるように頼みこんだ。

剣士はこのくらいの子供に教えるにはまだ幼すぎるとは思ったものの、横で真似事をしていたクレスの様子や、他でもないラルゴの頼みでもあるので引き受けた。

 

それからほぼ毎日、クレスは稽古をつけてもらった、

剣士は昔、村に自警団を作るために都で剣を習っていたため基本の型がきっちりとしていた。

多少厳しくはあったが、剣が好きというのと、飲み込みが早く、上達速度は剣士も驚くほどだった。

 

そして剣術の上達と共に、いつしかクレスは冒険者になりたいと思うようになっていった。

 

 

 

〜 惨 劇 の 夜 〜

 

 

 

しかし、クレスが来て10年経ったある日

悲劇はやって来た。

 

それはラルゴとフェルムが行商に出て行き、姉のピアニと二人でいた日の夜のことだった、

どこの家も夕飯をすませ、団欒のひと時を迎えていたその時、突如村に爆音と共に火柱が立った。

 

いくつもの悲鳴と共に自警団の人が避難を呼びかけていた。

そして一人の自警団の男が家に駆け込んで

「早く逃げてください!村の外へ!私どもでは手に負えません!」

 

と、次の瞬間

 

「ぐ、あ・・・」

 

男は背中に短剣を指され倒れこんだ、

 

その後ろには、

 

黒衣のローブを身にまとい、狂気に満ちた目をした、

 

そう、ダークビショップが立っていた。

 

そしてクレス達を見回し、その視線がピアニへと止まった。

 

「ほう、これは思わぬ拾い物だ、女、我が儀式の生贄となってもらおう」

 

いやらしい笑みとともにそう言うとピアニへと近付いた、

 

「い、いや・・・」

 

ピアニは裏口へと走り出した、

 

クレスは恐怖でいっぱいだったが、自分の家族であるピアニのため

ダークビショップへと飛びついていた

 

「うあああああああああああ」

 

男の腹にしがみつく

 

しかし

 

「邪魔だ小僧!」

 

その言葉と共に振り払われ、壁に激突する

 

悶絶し、うずくまるクレスに男は

 

「小僧、そんなに死にたいか?」

 

そう言うとロッドをクレスへと向けた、

 

『殺される』

 

そう思い目をつぶった瞬間

 

シャッ!

 

鋭い風を切る音

 

目を開けるとそこには師の姿があった

 

「ほう、私に一太刀浴びせられるとは・・・、老いてはいるようだが・・・、おもしろい」

 

師の剣は男のローブを切ったにすぎなかった。

 

「行け!クレス!」

 

男に対峙したままクレスに言い放つ。

 

クレスはその言葉にはっとすると、姉が逃げて行った裏口へと走り出した。

 

 

姉は100Mほど先の森の中へと走っていったのが見えた。

 

追いつける、そう思い後を追った。

 

師のことが心配ではあったが、自分の師が負けるはずがないと思っていた。

 

 

 

森に入り姉を呼ぶ、

「姉さん!」

 

少しして返事があった、

「クレス!こっちよ!」

 

声のした方へと走る

 

数十メートル先に姉の姿が確認できた

 

「姉さん!」

 

走りよって行こうとしたその時だった

 

ピアニはクレスの頭上を見上げはっとすると

 

「ダメ!!こっちに来たらダメ!!!」

 

突然の叫び

 

しかし、何のことかわからない、また姉の側にいなくてはという思いで走り続けた、

 

「いやあああああああ」

 

その瞬間だった

 

「―エクスプロージョン!」

 

激しい爆音と共にクレスは吹き飛ばされ

そして、気を失った。

 

 

 

激しい痛みと共に目を覚ました、

森の中、日は昇っている

自分の状況を思い出し、

「姉さん、姉さんは・・・」

 

立ち上がりあたりを見回す・・・

 

が、姉の姿はない

 

(「エクスプロージョン」)

 

「・・・・」

 

(連れ去られてしまった)

 

そう思った瞬間クレスは泣き出した。

 

姉が立っていた場所で、割れんばかりの声で号泣していた。

 

 

 

 

          〜 誓 い の 痣 〜

 

 

 

 

太陽が中天に差し掛かった頃クレスはようやく村へと戻った。

 

酷い有様だった、焼け焦げた臭い、抉れた地面、そして死者の側でむせび泣く声・・・

 

呆然とするクレスに中年の男が歩み寄った

 

「クレス、お前の師匠が・・・」

 

(そうだ、先生が)

 

クレスが自分を見るのを確認した男は、後についてくるように言い、簡易の避難所となったその男の家へと連れて行かれた。

 

師は、幾重にも包帯を巻かれ横たえられていた。

 

「先生・・・」

 

声をかけると師は小さく呻き、包帯から覗く目をクレスへと向けた、

 

「クレスか・・・、ピアニは・・・?」

 

クレスは答えられず、唇を噛んでいた。

それを見た師は、

 

「そうか・・・、私の力が足りないばかりに・・・、すまん・・・」

 

ただ、黙って聞くことしか出来なかった。

 

そして

 

「この怪我では・・・、私も長くはないだろう・・・」

 

その言葉にクレスは目を見張った、

 

「お前は・・・、強くなれる・・・、私よりも・・・、ずっと・・・」

 

「この剣を・・・、お前に・・・、」

 

師は自らの横に置いてあった自分の剣に目をおくり、そう言った。

 

師が都の鍛冶屋に頼んで作ったオーダーメイドの剣・・・

 

クレスが剣を手に取るのを見た師は目を閉じた

 

「先生!?」

 

驚き近寄ったが、胸が上下していた。

 

少しだけほっとすると先ほどの男のもとへ行き

 

「先生をお願いします」

そう一言告げると、外へと飛び出した。

 

そして、丘の上にあるラルゴが趣味で立てた小さな小屋へと向かった・・・

 

 

息を切らし、小屋へとついたクレスは、剣を鞘から放ち激しく振った、

涙を流し、子供とは思えぬ殺気だった面持ちで何度も何度も剣を振った、

 

10才の子供にはその剣は重すぎ、長すぎた。

すぐに腕は鉛のように重くなり、痙攣を始める、

しかし、クレスは握る力すらなくなり、手から落ちるまで剣を振り続けていた・・・

 

 

ラルゴ達が帰ってきたのはそれから1週間経ってからであった、その間に師は息を引き取った。

人づてに話を聞きクレスにはほとんど何も問い掛けることは無く、クレスが一人でその小屋に住むと言ったのも反対をすることはなかった。

 

クレスはあの日から村に入りはしなかった、その小屋に居続けた。

腕が上がらなく、なにも握れなくなるまで毎日毎日剣を振り続けた、

そのため腕の毛細血管は破裂し、紫にうっ血した、

だんだんとそれは濃くなりいつしか痣が取れることはなくなった。

 

クレスはその痣に誓っていた、

 

姉を攫い、師を殺し、村をぼろぼろにした、あのダークビショップを討つことを・・・・・

 

 

 

 

 

〜 王 都 へ 〜

 

 

 

 

クレスが村を出てから3日目の昼過ぎ、馬の調達をするための最初の街へとついた、

 

道中何度か魔物とも遭遇したが、ここまでは街道沿いだったこともあり対した敵ではなかった。

もちろんクレスは傷ひとつ負ってはいなかった。

 

1時間もしないうちに馬の購入を終え、食料の調達も済ませると夕方には街を出た。

 

街道を離れ、一直線に王都への方角へと。

 

もちろんその先に立ち寄れる街もなければ、魔物や山賊などが多数出る危険度の高い道筋であった。

 

 

 

「またか・・・」

 

クレスはそう呟いていた。

 

森を進んで数日、何度目であろうか。

 

周りにいるモンスターの気配。

 

オーク族の群れであった、その数10数匹。

 

オーク族などクレスにとっては相当の雑魚であるには違いなかったが、問題はその数と出現頻度。

 

クレスはほとほと飽きれていた。

 

「山賊の方がまだましなんだがな・・・」

 

人である山賊ならば頭目を狩り、戦意を喪失させればいいわけだが、この手の魔物だと話は別だった。

 

組織だった比較的知能の高い魔物であれば、それも効果はあるのだが、

 

この近辺のオーク族は仲間が殺されようとも関係なく向かってくる。

 

 

ヒュッ、ヒュッ!!

 

不意に茂みから矢が放たれた。

 

同時に何匹ものオークファイターが飛び出してきた。

 

「ちっ」

 

クレスは馬から飛び降りると飛んできた矢を篭手で受け流すと、向かってくるオークファイターに向かい駆け出した。

 

「はぁああああああああああ」

 

気合を溜め、一閃。

 

「ブヒァアア!!」

 

オークファイターはクレスの剣を受け止めることすら出来ず断末魔の叫びをあげる。

 

「雑魚が・・・」

 

吐き捨てるように言うと、腰のナイフをアーチャーめがけ投じる。

 

ナイフは正確に急所を貫き数匹のオークを絶命させていた。

 

それからわずか1分足らず。

 

クレスの周りに死体の山が出来あがっていた。

 

どのオークも一太刀のもとに斬り捨てられていた。

 

 

クレスは胸の成長石に目をやると、

 

「まあ、光るわけはないな・・・」

 

そう呟き、馬のもとへと歩いた。

 

クレスの成長石は既にレベル20をゆうに越えていた、そのため、オーク族のような低級の魔物で上がるはずはなかった。

 

その後、クレスは何度もオーク族、ゴブリンなどの群れの相手をしながら森を突き進んだ。

 

ただあまりにも遭遇率が高く、予定よりも森を抜けるのが遅れていたことは確かだった。

 

 

それから、3日目の夜、

 

クレスは山の上から王都の灯りを見つめていた。

 

「もう少しか」

 

魔物との戦闘で遅れていたとはいえ、近道のおかげで街道を来るよりはずっと早かった。

 

「それにしても、久しぶりだな・・・」

 

クレスは馬を走らせていた。

 

 

クレスが王都へ行く目的、

 

それは、ギルドでの冒険者免許の更新、そして、ダークビショップの情報を得るためであった。

 

 

 

 

〜 若 き 剣 士 〜 

 

 

 

ヴァルグリア歴490年、村の惨劇から3年。

 

その年クレスは冒険者になるため王都ヴァルグリアに来た。

 

王都には初めて来たわけでもない、養父の行商に連れられて来たことはあった。

 

その養父もこの3年の間に病で亡くなった。

 

クレスは村に入ることをやめていたため、看取ることもなかった、その時もクレスは剣を振っていたのだ。

 

 

 

ギルドの受付へ行くとカウンターにいた男は、

 

「どうした、親父さんでも探してるのか?」

 

しかし、クレスの返答は、

 

「いいえ・・・、冒険者としての登録に来ました」

 

男は驚いた、

 

見たところ13、4の少年が登録に来た、

 

今までこんなことはなかったのだ。

 

一般的に登録に来る人はほとんど16才を越え肉体的に無理なく冒険ができるであろうと、本人が自覚して来るものだった。

 

冒険者試験に年齢制限はしかれていなかったが、男は躊躇った。

 

こんな子供に試験を受けさせても良いのだろうか。

 

その反応をクレスは予想していた、また、それで断られてもいいと思っていた。

 

「できなければ構いません、石や免許無くとも冒険はできますから」

 

クレスの一言に男はまた驚き、そして再び考えた。

 

石と免許無しでも本気で冒険をする気でいる、それは石の補助も、またギルドの特典も無くより一層危険を伴う。

 

断ればこの子はすぐに死んでしまうかも知れない、

 

それよりは、ここで試験を受けている間は無茶をしないであろうし、

 

また、途中で力が足りないと諦めてくれればいい、むしろ、諦めることになるだろう。

 

そう思うと、男はエントリーシートをクレスへと差し出した。

 

しかし、男の期待は脆くも崩れることとなる。

 

 

その日のうちに最初の適正検査を終えたクレスの手には真新しい蒼の成長石があった。

 

試験官達もクレスの若さに驚いたが、クレスには冒険者になるための知識や身体検査においても

他の受験者と変わらないほどであったため、問題はないと判断された。

 

それからわずか一月の間に最終試験まで到達することとなる。

 

この年の試験は特に戦闘がメインであるものが多くそれがクレスにとって幸いだった。

 

身体に染み付いた剣術、生まれ持った才能であろう判断力と洞察眼、

 

他の受験者がもたつく中でクレス一人だけがすんなりと最終試験まで到達していた。

 

 

 

そして最終試験の日。

 

朝10時にギルドの受付けで仮免許を取得した、

 

その日の受付けは、最初にクレスの受付けに立ったあの男であった。

 

「まさかお前さんが一番乗りとはなぁ・・・」

 

男も同僚からクレスの話は聞いていた、

 

しかし、本当にここまでくるとは思いもしていなかったのだから、この言葉も当然だろう。

 

「これが一般用の仮免許と、会場への案内図だ」

 

そう言い、クレスに手渡し、

 

「ここまで一番乗りで来たんだ、どうせなんだから一発で受かりな」

 

「そうしたら祝いに飯でもおごってやるよ」

 

そういい身を乗り出しクレスの肩を叩いた。

 

「あ、ありがとう」

 

男の態度に戸惑いながらもそう言うと、会場へと向かった。

 

 

『一般用最終試験会場』そう書かれた看板の建物の扉をくぐると、待機していた試験官が歩み寄ってきた。

 

「クレス様ですね、どうぞ仮免許をお見せ下さい」

 

仮免許を見せる前に名前を呼ばれる、試験官が受験者の名前を知っていることはほとんどないのだが、

 

クレスに関しては異例続きでもあり、それに加え、その日の受験者がクレス一人だけであった。

 

クレスが仮免許を見せると、

 

「はい、結構です。では、試験の説明をさせて頂きます」

 

「内容は簡単です、この建物の下にある地下迷宮からの生還、それだけです」

 

「クレス様が入った後、入り口は封鎖されます、どこかにある出口を自力で見つけ出てきて下さい」

 

「生還ということは命を落とす危険性もあるということですね?」

 

「はい、モンスターが多数生息していますので、それ以外は命に関るものはありません」

 

「時間制限は?」

 

「6時間以内です、参考までに、最短ルートですと戦闘無しで歩いて2時間ほどで抜けられます、隠し扉といった類のものもありませんし、全域マッピングしても余りあるはずの時間設定です」

 

「わかりました」

 

試験官はクレスのその言葉を受けると、

 

「その先の階段を降りて下さい、クレス様が入られて入り口が閉まった時から時間が計られます、では、ご武運を」

 

そして、クレスは試験官の指差した階段を降り地下迷宮の扉をくぐった。

 

 

 

迷宮内はある程度広くひんやりとしていた、所々にカンテラもあり内部を照らしていた。

 

入り口の扉は既に石の扉により閉ざされていた、なんらかの仕掛け扉なのだろう、

 

入って数歩歩いた後に、突然扉が落ちた。

 

「モンスターか・・・」

 

クレスは歩きながらそう呟いた。

 

自分の力量はわかっているつもりであった、

 

一対一では負ける気はしない、だが、多対一のこととなると、少し不安だった。

 

ほどなく、コボルト達が目の前に現れた。

 

「3,4・・・7匹か」

 

数を確認すると先手を打つため一気に距離を詰め、一番近かった一匹に剣を振り下ろした。

 

コボルトは警戒はしていたもののあまりに素早く接近され、反応が遅れた。

 

「ガァアアア」

 

一刀のもとに斬り捨て、そのコボルトの手から短剣を奪うとそれを投げる、

 

見事に奥のコボルトに直撃し戦闘不能にさせた、同時に別のコボルトへと跳躍する。

 

シャッ!!

 

コボルトの首が跳ねられる。

 

「あと4」

 

しかし、その時、残ったコボルトの後ろからいくつもの気配を感じ取った。

 

「仲間か・・・」

 

コボルト程度いくらでも相手できるはずだった

 

ただ、それはもっと広い場所であれば。

 

また、数にもよるが同時に飛びかかれて全て避けられるか。

 

万が一足に喰らうとも限らない、時間制限もある。

 

そう判断するとクレスはすぐ後ろの角を曲がり駆け出した。

 

何度か曲がり走っていると追ってくる気配も無くなった。

 

「撒いたかな・・・」

 

結構な距離を走ったため息は上がっていた。

 

呼吸を整えながら懐中時計を取り出す、

 

すでに迷宮に入って1時間が経っていた。

 

クレスは方向感覚、記憶力にも優れており自分がどこまで来たかを把握していた。

 

「もうだいぶ進んだはずなんだがな・・・」

 

そう呟きつつ奥へと歩きだした。

 

それから数時間、何匹かコボルトやゴブリンなどを倒しながら迷宮を彷徨った。

 

 

そして、

 

「こっちか・・・」

 

出口からであろう空気の流れを感じその方向へと歩いた。

 

一方通行の通路の先に出口の階段が見えた。

 

と、同時に、

 

カタン

 

足元の石畳がくぼみ、階段手前の壁が開いた。

 

「しまった、トラップか」

 

よく見れば周りの石畳の幾つかはせり出しており、注意すれば避けられただろう。

 

モンスター・・・

 

壁の中から気配を感じ身構える、

 

中から出てきたのは、トカゲに良く似た、二足歩行で身体に防具、手には剣を持っていた。

 

リザードマン

 

そう呼ばれているモンスターだった。

 

駆け出しの冒険者にとっては一対一では勝てるかどうかといったモンスターである。

 

リザードマンはクレスの姿を確認し、ある程度の距離を取ると、

 

「キシャアアアアアア!!」

 

奇声と共に飛びかかって来た。

 

ギンッ!!!

 

思ったよりも早い剣撃だったが、それを受け止める、

 

「くっ」

 

勢いに押され体勢が崩れる、

 

と同時にリザードマンは身体を回転させた、

 

ドガッ!

 

尻尾による打撃、

 

咄嗟に身体をくねらせたものの肩に受け、吹き飛ばされる。

 

「ぐあっ」

 

倒れこんだクレスに追い討ちをかける様に剣を振り下ろす、

 

転がり避けるが完全に避けることは出来なかった、

 

起き上がったクレスの左腕から血がしたたる。

 

「くそっ」

 

リザードマンから距離を取る。

 

クレスは自分が後れを取っていることに腹を立てた。

 

こんな相手にてこずっていてはいけない。

 

自分の相手はあのダークビショップなのだから。

 

再び剣を構える、

 

「これで終わらせてやる、はぁああああ!!」

 

いつにもない怒声と共に地面を蹴った、

 

「シャァアアアア!」

 

同時にリザードマンもそれに対し剣を振り下ろした、

 

ザシュ!!

 

わずかな差だった、

 

クレスの斬撃がリザードマンの腹を切り裂いた

 

「ガァアアアアアアアア」

 

絶命させるには至らなかったが、

 

リザードマンは地面に伏し立つことは出来なかった。

 

勝ったと実感したと同時に、クレスの全身を虚脱感が襲った。

 

もう、トラップはないと思いつつもゆっくりと階段を登っていった。

 

 

 

出口には入り口にいた試験官が待っていた。

 

「おめでとうございます、所要時間3時間40分、試験合格となります」

 

と同時に、クレスの左腕からの大量の出血を見とめると、

 

「これは・・・、・・・ヒーリング」

 

試験官は傷口に手をかざすと神聖魔法を唱えた。見る間に傷口は塞がる。

 

「ありがとう、最後でてこずってしまったので・・・」

 

感謝の意を述べたが、試験官はそのあとの言葉に敏感に反応した、

 

「まさかあれを倒したのですか!?」

 

クレスがその問いに頷くと、

 

「最後のモンスターは厳しすぎて、戦闘をどうにか避けて来るのが通例だったのですが・・・、倒してしまうとは・・・」

 

「これほどとは思いませんでした、どうか素晴らしい冒険者となって下さい」

 

興奮気味にそう言うと、合格証明書を手渡された。

 

「ギルドの受付けに仮免許証とこの証明書を提出してください、あとはあちらで説明があります」

 

クレスは試験官と握手を交わすとギルドへと向かった。

 

 

ギルドへ戻ったのは日が暮れだした5時を回った頃だった。

 

受付けの男はクレスの姿を見つけると、

 

「合格か!??」

 

と大きな声で聞いてきた。

 

周りに居た他の冒険者達も噂を聞いていたのだろう、その声を聞きこちらに注目している、

 

やりづらいな、

 

そう思いつつ、黙ったまま男に仮免許証と合格証明証を手渡す。

 

「やったじゃねえか!このギルドじゃ最年少の冒険者の誕生だ!」

 

「おおおおおおお」

 

何もそこまで声を張り上げなくてもと思われるほどの声、それを聞いた冒険者達も感嘆の声を上げる。

 

「うあ・・・」

 

クレスはそれに戸惑った。

 

「これが免許だ、詳しい説明はこっちの紙に書いてやってあるからあとで読んでくれ」

 

「じゃあ、約束の飯でも食いに行くか、おい、お前らも祝ってやらねえか?奢りじゃねえがな!」

 

他の冒険者も賛同し、ほとんど無理やりにクレスは食堂へと連行された。

 

 

 

『西風亭』と書かれた看板の店に彼らの姿はあった。

 

その会場はクレスの養父の知人が経営し、試験中は寝泊りさせてもらっていた食堂だった。

 

街には酒場もあるのだがクレスがまだ酒を飲めないこともあり、そこになった。

 

「若き剣士の誕生、冒険者クレスにかんぱーい!」

 

祝いの酒盛りは夜中まで続いた、

 

クレスは試験の疲れ、また、あまりにも歓迎が過ぎたため頃合いを見て、借りている一室へと戻った。

 

下の階からは賑やかな声が聞こえる、

 

それに冒険者となったことを実感しながら、

 

ベッドに横たわり天窓から見える星空を眺めていた。




Next to Page....






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送